おしえてムーラン

相続空き家の登記義務化

「ひいじいさんの名義の土地があるんだけど、売りたいと思いまして…」という相談に来られるお客様が時々いらっしゃいます。

売却するためには、その事前作業として登記上の名義を現状と一致させる必要がありますが、ひいじいさんが亡くなってから40~50年を経過していることも珍しくなく、そうなれば、ひいじいさんの相続人が百名近くに及んでいる場合もあります。事前作業だけで相当の期間と相当の費用を要することになります。

相続登記が義務化へ

空き家等対策の推進に関する法律(空家法)が施行されてから5年が経過し、政府は所有者不明土地対策に本腰を入れています。
所有者不明になる原因は、まさに相続の際に、亡くなった人が所有していた土地や建物の登記名義を変更せず、長年放置してしまうことにあります。

私のところに相続に来られた方は、少なくとも自分が相続の権利を有する土地や建物があることを知っているわけですが、“ひいじいさんの家”の相続について権利がある人の中には、相続発生から40年も経てば、そうした土地・建物の存在を全く知らない人も含まれている場合も多く、売却したい相続権を有する人の思い通りに、まずその人の名義にするためにはすべての相続権利者の合意が必要となります。

空き家問題は、このように個々の人々にとっても悩ましい問題へと発展する可能性がありますが、国全体としても大きな問題です。そこで政府は国会に相続登記を義務化する法案を今月(2021年3月)提出することになりました。今のところ 、この法案が成立すれば 、2023年度から施行されることになりそうです。

法案の内容は…

①今までは任意だった登記ですが、改正案では、相続開始後3年以内の登記を義務化するようです。
これに従わないときは10万円以下の過料となります。②亡くなった人が遺言を残していないときは、遺産分割協議をする必要があります。この協議で誰が、何を、どのように相続するかを決めないと、相続登記を行うこともできません。

これまでは、遺産分割協議について法律上の期限はありませんでしたが、改正案では相続開始から10年を過ぎると原則的に法定相続割合で分けられることになります。③上記①②を考えれば、「売れない土地を持たされても厄介なだけだな」と思う人もいることでしょう。

そこで改正案には土地所有権の国庫帰属制度が新設されます。これは国が土地を引き取ってくれる制度ではありますが、国が審査をし「一定の条件」を満たすことが求められます。

この一定の条件は

ア)対象地は更地であること。
イ)抵当権が付着していないこと。
ウ)境界の争いがないこと。
エ)土壌汚染がないこと

などです。こうしてみると、もし対象地の上に老朽化した建物がある場合は、相続人の負担で解体しなければなりません。また、境界の争いがないことを客観的に証明するためには土地家屋調査士に依頼し、境界の確認、実測を行うことが必要になります。更に、国に土地を引き取ってもらうには10年分の管理費を相続人が払うことになりますので、実効性がどの程度なのかは、やや不透明な感じがします。

改正案で相続登記以外のこと…

所有する不動産の売却をするときには、取引の安全を図るため、登記された内容と所有者の現状を一致させる必要があります。
また、これが一致していないと客観的に本人に売却の意思があって取引がされたものかの確認ができないため、買主への所有権移転ができず、すなわち売却ができないことになります。その不動産を取得したときに登記した内容(住所・氏名)が、婚姻、離婚、引越し等の理由で、実際に変わったら、売却のときまでにその変更を登記に反映することが取引の安全上必要です。

但し、今回の改正案は所有者不明土地をなくすことが目的であり、そうした意味において所有者の住所・氏名を明確に把握するためにこの件も義務化されます。住所・氏名の変更は2年以内に登記しなければならず、違反すると5万円以下の過料という法案内容になっています。

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