おしえてムーラン

注目される、家族による信託 〜判断能力の欠如に備えて〜

高齢者人口の約4分の1が認知症になっていると言われ、これからも増え続けていくことが予想されています。認知症になり、判断能力が無くなった場合に財産をどのように管理していくかという問題が浮かび上がってきますが、それを解決できるひとつの方法が、家族による信託です。信託は、財産を持っている人(委託者)が、信頼できる人(受託者)に一定の目的のために自分の財産の管理や処分を任せて、そこで得られた利益を特定の人(受益者)に渡す仕組みで、受託者の役割を家族や親族が引き受けるのが、家族による信託です。家族による信託が上手く機能する2つのケースを例に考えてみましょう。

【事例1】古い家に住んでいる一人暮らしの母親は80代。身体の調子や足腰も弱ってきてしまっていることから高齢者施設へ移り住もうかどうか考えているケース。別居している60代の息子がひとりいますが、母親の希望として、長年の思い出が残る家はそのままにしておき、月に何回かは帰宅して泊まりたいという気持ちがあります。もし、施設入所後に母親が認知症になり、判断能力が欠如してしまった場合、母親の自宅の管理や処分が問題になります。息子が近くに住んでいれば、家の管理や修繕ができますが、母親の生活費や施設でかかる費用を捻出するためにやむを得ず自宅を売却しなければならなくなった場合、所有者は母親なので、母親の意思判断能力が欠如していれば“ 売りたいのに売れない” という状況になってしまいます。つまり、息子は自宅を活用することも売却することも難しくなってしまうということです。そこで家族による信託を利用し、施設に入所する時や母親が元気なうちに、委託者と受益者を母親、受託者を息子、信託財産を母親の自宅、とする信託契約を結びます。自宅を売った場合の売却代金は受益者である母親のものです。その売却代金の管理は受託者である息子がしっかりと行い、母親のために有効に使うことになります。成年後見制度を使わなければ自宅の有効活用や処分が難しかったのが、自宅は息子の判断に委ねることができます。

【事例2】これから不動産が共有になる可能性があり、相続人間でもめるのを回避したい場合にも利用することができます。自宅兼アパートで暮らしている80代の父親に、同居している50代の長男、他県で離れて暮らしている40代の長女がいるケース。現金はあまりありませんが、今住んでいる土地と建物は長男に譲りたいと思っており、このまま相続が発生してしまうと、自宅兼アパートが“ 長男と長女の共有財産” となることも考えられます。共有になるとアパートの修繕や売却を考えた場合には、長男と長女が連絡を取りあいながら互いの承諾を得る必要が出てくるため、もめてしまう可能性も否定できません。そこで家族による信託を利用し、父親を委託者兼受益者、息子を受託者、信託財産を自宅兼アパートとする信託契約を締結します。信託契約書には、父親の相続発生時に備え、アパートの家賃収入などで発生する家賃受益権の半分は長男、もう半分を長女にするような記載もしておきます(第二受益者が長男と長女)。そうすることにより、①父親は自分が生きているうちは息子にアパートの管理を任せて家賃収入は受け取ることができる、②息子は父親が亡くなった後もアパートの建て替え・修繕・売却を自身の判断で行うことができると同時に、長男、長女でアパートからの収益を半分ずつ受け取ることができ、父親の遺産の半分を各々相続したことと同じ状態になります。このように利用できる家族による信託ですが、いつ検討すれば良いのでしょうか?検討するタイミングは「不安や心配を感じた時」です。認知症を発症してしまい、判断能力を失った状態になってしまっては、いかなる契約行為もできなくなってしまいます。元気で健康であるうち、子もまだ問題を感じていない時こそ対策を講じる時でしょうし、親の体調に変化が現れてきて子が問題を感じ始めた時はギリギリのタイミングになります。手遅れになる前に準備をしておくことが大事ではないでしょうか。

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