おしえてムーラン

市場地合いと倫理観~購入申込書の意義

コロナウィルスの経済的な影響として、飲食店の苦境が伝えられていますが、不動産についても大都市圏のオフィス賃料等が下落するなど一定の影響がみられます。青森市において、あくまでも私の肌感覚としては、今のところ不動産の取引件数の減少はあまり感じられません。ただし、コロナによって、国内外の物資輸送に制限が加わるなどの理由により様々なモノの流通が相対的に滞り、モノ不足を招くことにより、モノの価格が上がる―コストプッシュインフレの状態になってきています。新車を生産するための半導体が不足し、新車の生産が滞り、減産や納期の遅れが生じていますが、それにより中古車の価格の高騰を招いています。日本の新築住宅に使用される木材は、北米からの輸入材が多くを占めますが、この木材の調達が難しい状態となっており、大手住宅メーカーでも請負価格の値上げを発表しました。車と同様、新築価格の高騰は、中古住宅価格を高値に誘導することになります。

「再調達価格」とは…

一般的な感覚として、住宅の価格は概ね30年で0(ゼロ)、すなわち新築後30年経てば土地と建物の価値の合計は、土地の価値と一致すると捉えている人が多いと思います。仮に30年でゼロになる住宅の現在価値を推し量るときに、計算の基になる新築価格が再調達価格です。この再調達価格は、前記のように“概念的な新築価格”であって、“新築された時の価格”ではありません。“今、この住宅を新築したらいくらかかるか”という価格です。したがって、実際に新築されている住宅の価格が、資材の値上がりや人件費の上昇により高くなっている場合には、中古住宅の価格についても、“今、新築したら…”現在の資材価格や人件費を基にして価格が形成されることを想定した価格を規準として価格が計られることになります。

市場地合と倫理性

こうした市場地合は、経済的な格差を増大させる要因となりますが、経済格差が大きくなると、市場は限られた見込客の争奪の色合いが濃くなります。不動産市場でも、こうしたことから「お客様をより大事にする」意識が働いていると思いますが、「大事にする」その方法が正しいかどうかは考えてみる必要があります。

「購入申込書」の意義

不動産を購入する際、買手が購入意思を示す方法として購入申込書を提出するのが慣例です。この購入申込書に法的な拘束力はありません。つまり、契約したいという意思表示にすぎず、一方的な買手から売手に対する意思表示ですから、契約が成立しているわけではないので、購入意思が無くなった場合に「買うのをやめます」と言っても何らペナルティが課されるわけではありません。しかし、この法的拘束力がないことをいいことに安易に申込みをするケースが増加傾向にあるように感じます。法的に問題がなくても、道義的に極めて非礼な行為であることは善良な人は勿論のこと、普通の感覚を持っている人には理解していただけると思います。購入申込みをする際は、①購入希望条件が成就したら不測の事態が発生しない限り撤回しない。そのために②資金調達の裏付けと、資金調達可能時期を明確にした上で申込むというのが、申込みの当事者である買手にとっても取引の安全に繋がります。不動産の取引は、一般消費財と違って相対(あいたい)取引ですから、売手と買手の相互の権利が守られ、利益の衡量が相互に認められなければ成立しません。当り前のことを当り前に考えて行動することは、何より自身の身を守ることになります。

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