おしえてムーラン

不動産の売却にかかる感情と経済合理性

不動産を売却したときに税金がかかることは知られていますが、どんな税金がどのくらいかかるのか、そうした税金や宅建業者に支払う仲介手数料などの諸費用を差し引いた後、手元にどのくらい残るのか…となると、ある程度の知識がないと計算できません。不動産を売却すべきか否かを考えている方にとって、税金などの経済的な影響だけでなく、当然に個人の事情や感情も含めて、意思決定することになりますが、経済的なことが感情に影響することがあるのも事実です。

そもそも論

最近は“査定額を比較して高く売りましょう”というような、いわゆる一括査定サイトが多くなっています。数社に査定を依頼して比較した方が良いのは勿論ですが、高い査定額を出した業者が必ず高く売ってくれるわけではありません。買い取り査定と異なり、仲介の査定の場合は“これくらいで売れるだろう”という予測値です。高く売り出したために、競合物件を安く見せてしまい結果的に競合相手が売れるのを手助けしてしまうケースもあります。売主が高く売りたいのは当然ですが、競争力を見極めて適正な価格で売り出さないと、売れ残り物件になる危険もあります。

高齢者の売却事例

抽象論だとわかりづらいので、私が体験した事例を交えて綴りたいと思います。売主は80歳の女性。夫は既に亡くなり独り暮らし。市内に子(次女)夫婦が住んでいて、時々様子を見に来ている。体の衰えから、独りで生活するのも厳しいと感じるようになり、近日中に施設に入所することに決めた。しばらくは、住んでいる家も空き家になるが、できればこの家で最期を迎えたいと考えている。

分析① 感情、事情を重んじた場合

この女性は“最期をこの家で迎えたい”と考えています。実際にそのようになるのかはわかりませんが、こうした思いを持っていらっしゃる方の場合は、(敢えてドライに記しますが)この方が亡くなってから売却、つまり、相続人に所有権が移転してからの売却になる可能性が高いと思います。この女性の相続人は子になりますが、子の1人が単独相続しても、あるいは姉妹が共有として相続しても、この家を売却する時は自己居住していたものではないので、売却益が出れば譲渡税が発生します。また、売却した年の所得は売却益が加算されますので、翌年の健康保険料や住民税が大幅に上がることが考えられます。仮に、売却益が1,000万円だったとすれば、譲渡税(国税+地方税)を約200万円納付することになります。加えて、翌年の住民税(市・県合わせて)が、単独相続の場合は約100万円増えます。健康保険料については、上限額が(青森市の場合は93万円)が定められているので、増分を単純には計算しづらく、また、売主の年齢により内訳の一部である“介護分”は徴収額が変わってくるので一概には言えませんが、この事例の場合は「今まで支払っていた額と上限額の差額」が増分となります。

分析② 経済合理性のみを考える場合

この女性は近日中に施設に入所することを決めましたが、この家はこの女性が住んでいた家です。住まなくなってから3年を経過する年の年末までに売却すれば、いわゆる“3,000万円控除”が利用できます。これは、自分が住んでいた家を売って、売却益が3,000万円以内ならば、税を免れる制度です。この事例では、売却益が1,000万円としましたので、譲渡税は発生しません。また、この女性が売却の翌年に徴収される住民税や健康保険料についても、家を売却したことによる増分は発生しません。いかがでしたでしょうか。経済的な損得も感情に影響を及ぼすものの、経済合理性だけを考えても満足は得られません。ご自身の感情や事情と制度を照らし合わせ、最善の“落としどころを見つける”ことが大切です。

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